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地域のイマ、とコレカラ…『第十三回 ファーストアヴェニュー 中嶋 洋さん』

新型コロナウィルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第13回目は戸塚のリハーサルスタジオ・ライブハウス「ファーストアヴェニュー」店長の中嶋 洋さんにインタビューを行いました。戸塚の老舗スタジオ店長の目から見た音楽、バンド、ライブハウスの現状と未来、そして地域を盛り上げるために私たちにできる事を伺いました。

中嶋 洋店長(左) ペロンチュー堀口さん※(右)

※写真撮影のためマスクを外しています。

※堀口さんはファーストアヴェニューを利用するバンドマンです。

ファーストアヴェニューの歴史を教えてください。

1989年に現在の地にスタジオを開業し、2019年5月、地下にライブハウスをオープンしました。

以前、戸塚にはハマヤ楽器さんや、別の楽器屋さんのスタジオがありましたが今は無くなってしまい、スタジオはうちだけです。

実際には横浜駅のスタジオを利用している方も多いと思いますので、戸塚のミュージシャン人口は、うち(ファーストアヴェニュー)を維持できる人数+α、潜在的にはプラス1館くらいがいる印象を持っています。

「ファーストアヴェニュー」ホームページはこちら

ファーストアヴェニューの企業活動を教えてください。

レンタルスタジオ、ライブハウスの運営が主な活動です。

スタジオは、Aスタジオ(18帖)、B1スタジオ(16帖)、B2スタジオ(16帖)、Cスタジオ(12帖)の4つ、ライブハウスはバンド、ユニット、ソロ弾き語りなどジャンル問わず、オリジナル曲、コピーと幅広く出演できるコンパクトな箱です。

Aスタジオライブハウス

 

新型コロナウイルス流行に伴う変化について教えてください。

売上はかなり落ちました。コロナ以前と比較すると30%くらいまで落ち込みました。利用が多いと感じた時でも、コロナ以前の7割くらいがいいところですね。恐らくどこのスタジオさんも似たようなものかと思います。

まずスタジオ運営のほうは、コロナの影響でバンド練習に来られない人が多いので苦戦しています。ライブハウス運営も、バンドさんに「お客さんを呼んでください」とお願いできない状況なので、チケットノルマ※制度をやめたりして小規模でもやっていくしかありません。今後はどうやって客単価を上げるかが課題ですね。

 

コロナの流行直前というタイミングでライブハウスをオープンしましたが、結果的にはこれで助かった面が大きいです。というのも、ライブハウスは飲食を提供する「飲食店」なので、感染拡大防止の協力金をいただけるからです。もちろんライブハウスとスタジオを合わせると協力金で足りるわけではありませんが、仮にスタジオだけだったとすると経営が難しかったかも知れないですね。

うちはスタジオユーザーも多いので、ライブハウスオープン時はみんながライブハウスを使ってくれました。5〜6か月ほどで想定していた数字まで順調に上がりましたが、そのころからコロナ流行の噂がはじまりました。ライブハウス運営のノウハウができあがるくらいのタイミングに、コロナの影響で完全に運営がストップしてしまったので、コロナ明けはまた一からやり直しです。

 

※チケットノルマ:ライブハウス出演にあたり、売らなければいけないチケット数。(出演者の買取となる)

楽器演奏者の音楽活動に変化は生じていますか?

今、うちではコロナ対策としてライブハウスの出演には「ヴォーカルなし」を規則にしている関係で、ヴォーカルもののイベントは軒並み中止になってしまいます。先日、中止になったバンドのリズム隊(ドラム、ベース)とDTMer※が、「場所はあるのに何もやらないのはもったいない」ということで、共同でライブをやりました。このようにDTMerが中心にディレクションしていけば、ライブ当日まで直接会わなくてもライブが実現できます。このムーブメントはコロナ後に始まったもので、そこに目を向けている若い子たちが既に出てきています。もともとDTMerは作品を完成させるスピードがとにかく速いので、そこにバンドがつられ始めると、さらに動きが加速するのではないかと期待しています。

昔は打ち込みでロックをやるのは何となくゾワゾワするというか、「なんであの人打ち込みなの?」となっていましたが、コロナになって常識が変わりつつあるようです。

こういったポジティブな一面があるのには救われる気がしますね。

 

※DTM:Desk Top Musicの略。PCを利用して音楽制作をする事。

DTMer:ディー・ティー・エマー DTMをやる人のこと。

 

コロナによって「自分たちのやり方ができない」といって活動を止めてしまっている人は多いと思いますが、アマチュアを含めてみんなアーティストなので、活動を継続することが重要だと思うんです。文化として止めちゃいけない活動を止めかけてしまっているのが現在起きていることだと思います。アーティスト側もそれを「仕方ないこと」として受け入れすぎている気がします。アマチュアとはいえ、今できることを見つけてやったほうがいいと思います。

「動けない」と言っている人には、「やれることあるんだけどなあ」と思いながら実に歯がゆい感じなんです。

ライブハウスはこれからどう変わると思いますか?

コロナ以前、ライブハウスはすごくクローズドな空間でした。それがコロナによって急激にみんなに配信という意識が出て、ライブハウスも急激に外の世界に出て行こうとしています。今の配信やネット環境を使った新しい試みも10年続ければ多くの人にとって当たり前になるはずです。もともと音楽を生で聴いたことの無い人たちにとってはアマチュアのライブでも敷居が高かったと思います。本来は「お目当てのヴォーカルを聞きにいく」といったように実にシンプルな遊びであることを、これまで業界全体で広報できていなかったと思うんです。これに配信が入ることで多くの人にライブハウスが身近なものであることを知ってもらえれば、見に来る人も増えるのではないかと思っています。

「新しいものが生まれて、配信でそれを知ってもらって、その結果としてお客さんが増える」そうポジティブに思っていないとやっていられないという部分もあります(笑)。

 

ただ、今後コロナが明けたとしても公衆衛生のレベルをコロナ前に戻すことはできないし、コロナ対策には協力していきます。「わーい!コロナが明けた!」で元通りお客さんをぎゅうぎゅうにしていたら大バッシングを受けて本当にロックは滅びちゃう(笑)。ライブハウス側はもちろんですが、ミュージシャン側の意識も変わらなければならないタイミングなのかもしれませんね。

それ以外でも「クラスターが発生しました。協力金はもう出ません。」となったらライブハウス、スタジオは無くなる可能性はいくらでもあります。ただ、もともと誰かがロックをしていたからここにスタジオができて、ミュージシャンが出入りしていたらここにライブハウスができたように、仮にスタジオが無くなっても、また集まって活動している人がいればそこにお金を出す人も出てくるだろうし、ハードウェアはそうやってまた作ればいい、そのくらいの気持ちで動いています。

私自身20年くらいこの業界にいますが、ながらく下降する業界ではあったので、追い込まれることに慣れているのかもしれません(笑)。

※写真撮影のためマスクを外しています。

地域の音楽活動を盛り上げるためにさくらプラザに期待することは何でしょう?

地域の情報発信メディアとして、例えば音源・映像の配信まで面倒を見てあげようという組織が出てきて、それを収集・共有しちゃえばどんな街でも「音楽の街」だと思うんです。ただ発見できていないだけで戸塚にもミュージシャンは沢山住んでいるわけですから。こういった人たちの発掘と繋がりを作る仕事をしてもらえたら嬉しいですね。

私自身も、地元のすごい人を発見した際にはSNSでシェアするようにしています。こういった「繋がるためのアクション」をみんなが意識してくれたらいいですね。そのためにはダンスでも音楽でもみんな動画を上げていけばいいと思うんです。「何をやっているか」だけでも発信してくれれば、おのずと興味がある人どうしがくっつくはずなので。

今すぐ撮って発信というかたちでも勿論いいんですけれど、例えば練習の成果発表の場として利用してもいいですよね。そういった目的をつくるとそこに向けて練習が生まれて、そこにリーダーも生まれ、サポートするメンバーも生まれる。そうして活動団体がより強固に、かつ楽しく発展する可能性があります。集客や成功を前提としない発信の場をこちらで用意してあげられればいいですよね。

文化・芸術に携わる我々がすべきことは何でしょう?

アーティストが沢山の人に自分の活動を知ってもらうためには作品を見えるところに置くしかないんだと思います。我々はアーティストをサポートして、その作品をより多くの層に対して見てもらえるように活動をする。それを見た人が「いいな」と感じ、同じ街の人の作品と知ればきっと興味をもつはず。そうして沢山の人に身近にいるアーティストに気づいてほしいんです。そうすることで音楽や絵などの多くのカルチャーが街に定着するはずです。そもそも戸塚の人口でこういった活動が盛り上がらないはずがないと思うんです。うちにもこれだけの利用があるわけですから。

最近では地元アーティストの発信とコロナ禍における地域の音楽シーンへの寄付的意味を込めてオムニバスCDの企画が始まり、2月に第一弾のCDを製作してYouTubeでも公開しています。

第一弾の音源はこちら

この企画は今後も続けていこうと思っています。

(取材・文:勝間田 努/写真:石井 由里子)

戸塚区民文化センター さくらプラザ