地域のイマ、とコレカラ…『第二十二回 東郷 まどかさん』
新型コロナウィルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第22回目は、2022年3月19日(土)に「区民企画事業」としてさくらプラザ・ホールで「東郷まどか ピアノリサイタル 〜大作曲家の若き日々〜」を開催予定のピアニスト 東郷 まどかさんです。コロナ禍における音楽活動やオンライン授業での苦労、今回の公演の魅力について伺いました。
―東郷 まどかさんの音楽活動について教えてください
東郷 まどか(以下、略):横浜生まれの千葉県育ちです。東京藝術大学卒業後、ハンガリーのリスト音楽院に2年半留学。3年後に、再渡欧し、ミュンヘン音楽大学でマイスターディプロム(※)を取りました。帰国する際、夫の実家があった鎌倉市と私の実家の船橋市の両方に便の良い横須賀線沿線に住もうということで東戸塚に決まり、それから戸塚区民になって30年以上が経ちました。
普段は、ピアノを教えることがメインの仕事です。昭和音楽大学と大学附属音楽教室、それから自宅で教えています。生徒さんは、5歳の年中さんから20〜60代の音大卒の方々まで様々です。
その他、演奏活動として自主企画のリサイタルを1986年から継続して開催しており、今回で15回目になります。
戸塚区内での演奏活動としては、今は閉院してしまった戸塚MTクリニックという産婦人科病院の院長であった故 千国 宏文先生が、ほとんどご自身の負担で年に3回、戸塚公会堂で妊婦さんのために開催されていたコンサートがとても思い出深いです。私も、1994年から15年間毎年3回出演し、20分程の枠で、回ごとにソロと室内楽の曲、いろいろ弾かせていただきました。ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」等、普段弾かない曲も弾いたりできて、本当に良い経験でした。
他には、当時戸塚区役所が主催していた「戸塚クラシックコンサート」のオーディションに1993年にトライして、シューマンの「クライスレリアーナ」を弾きました。そのコンサートに出演した人達が母体となったのが、今の戸塚区演奏家協会で、「とつかのん」と「ホット&ハートフル」等のコンサートを開いています。これらのコンサートは地元密接の演奏会の場として、貴重な繋がりです。
その他には、大学や音楽教室関係の演奏会だったり、伴奏を頼まれたり、室内楽を演奏することもあります。
2年前には、MTクリニックのコンサートでご一緒だった戸塚在住の女優である神保 麻奈さんと、R.シュトラウスの「イノック・アーデン」という珍しい演目の企画を3回開催しました。
※マイスターディプロム:ドイツにおける、大学又は同等の高等教育機関のマスターコースによって授与される修士号。
さくらプラザで開催された「とつかのん」に出演する東郷さん。
―新型コロナウィルスの影響で、どのように日常や活動が変化しましたか?
演奏活動は、ほとんどできませんでした。2020年2月、さくらプラザとの共催公演「とつかのん」の実行委員長をしており、横浜港のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での感染のニュースに戦々恐々とする中、どうにかコンサートを開催しました。それを最後に、2021年10月3日に次の「とつかのん」で演奏するまでの1年半、ほとんど活動できませんでした。
ピアノを教える仕事は、恐る恐る続けて今日までどうにか実施できている感じです。それでも、遠くからレッスンにいらっしゃる方の中には、「電車に乗るのが怖い」といった理由から、来られていない方もいます。他にも、ご主人がテレワークになってしまったため、ご主人の書斎に置いてあるピアノが使えず全然練習ができなくなってしまった、という方がおられました。その方は、最近になって漸くご主人が出社されるようになり、1年半ぶりにお越しいただくことができました。
近所の子どもたちには、比較的滞りなく対面でのレッスンができましたが、音大のレッスンは、昨年も今年も一時的にオンラインになりました。オンライン・レッスンはそれまで経験がありませんでしたが、想像以上にやりにくいものでした。オンライン会議など会話には支障が無くても、ピアノの場合、学生が全音符や2分音符で伸ばしている箇所が、こちらには4分音符のようにぷつぷつ短く途切れて聴こえるのです。最初は原因がわからず、「今の音、伸ばした?」と何度も聞き返す状態で…。カメラの置き位置でペダルをどのように踏んでいるのか目視できませんし、タイムラグもあります。レベルが高く難しい曲に取り組んでいる学生のレッスンほど、難しかったです。
このような状況でしたので、大学側も「これでは無理」との判断に至ったのだと思います。昭和音大では、昨年6月半ばから、しっかり感染対策をした上での対面レッスンに切り替わりました。このように、音楽を教える場面においては、残念ながらネット越しでは難しいということを痛感しました。
ただ、利用方法によっては、オンラインは有効活用できると思います。例えば、海外など遠方の先生の教えを受けたいときや、少し体調が悪いけれどレッスンを受けたい、というとき等です。リアルタイムのオンラインより、動画を撮って送る方が、ずっと音質が良く聴きやすいと思います。私自身も、夏にポーランドの先生に動画を送って、とても良いアドバイスをいただけて嬉しかったです。
また、発表の場としての「ネット配信」は、とても有効な手段だと感じました。今年11月にポーランドで開催された「ショパンコンクール」のYouTube配信は素晴らしかったです。
もちろん、生で音楽を聴ける環境は絶対に必要なので、生と配信のそれぞれの良さを活かしていくことが大切だと思います。
―新型コロナウィルス終息後に始めたい活動はありますか?
まずはコロナ以前の状態に早く戻ってくれることを祈るばかりです。私が関わっている、子どもたちが通った市内の高校のPTAコーラスは1年半休止していました。それもようやく近いうちに再開できそうなのですが、しばらくはマスク着用で歌うしかなさそうです。「歌」は音楽の基本だと思うので、早くマスク無しで以前のように気兼ねなく歌えるようになってほしいです。連弾やアンサンブルについても同様です。音楽以外の食事やおしゃべりといった面においても、以前のように集まって楽しく食事をしたり、気軽におしゃべりできる時間を早く取り戻したいですね。
―さくらプラザに求めるものは何でしょうか?
スペースの問題など物理的制限があるのは承知の上ではありますが、貸館公演の宣伝スペースがもう少し広いと嬉しいです。公演情報の入手には、まだまだチラシなどの紙媒体が主体だと思いますので、是非ともご検討いただけますと助かります。それと、さくらプラザの主催公演として、フレッシュなアーティストやマイナーだけど光るアーティストの公演をもっと増やしていただきたいですね。以前、さくらプラザでチェリストのジャン=ギアン・ケラスさんの公演(※)があったかと思いますが、ああいった公演をもっと開催していただけますと嬉しいですね。もちろん今は海外の人を呼ぶのは難しいと思いますが、落ち着いたらそういった公演も計画していただけると嬉しいです。
※ジャン=ギアン・ケラスさんの公演:2013年11月24日(日)[黄金バッハvol.2] ジャン=ギアン・ケラス 無伴奏チェロ・リサイタル
ー最後に、戸塚の皆様にメッセージをお願いいたします。
2022年3月19日(土)に開催する「東郷まどか ピアノリサイタル 〜大作曲家の若き日々〜」では、バッハのイギリス組曲、ショパンのピアノ協奏曲第2番を弦楽カルテット共演で、それからバルトークのピアノ五重奏曲。大作曲家が若い頃に書いた3作品を取り上げます。
バルトークのピアノ五重奏曲は、滅多に演奏されない曲です。まだ、バルトークの作曲スタイルが確立されていない頃の作品です。先輩ドホナーニのピアノ五重奏曲Op.1に感動して書いた、40分近い力作です。パリの「アントン・ルービンシュタイン作曲演奏コンクール」に応募したのですが、楽曲が長過ぎて難しいという理由で、演奏もされずに終わってしまったらしいです。その後、散逸してしまった手書きの楽譜が1970年に再編集されて出版されました。楽譜の出版に合わせて行われたタートライ・カルテットとチッラ・サボーのピアノによる録音が素晴らしいです。それ以降、再び(時折ですが)演奏されるようになった、という経緯を持つ曲です。ブラームスやR.シュトラウスの影響を強く受けており、「これがバルトーク?」とびっくりされるでしょう。ご興味のある方には、是非お越しいただけたら幸いです。
今回の共演者の大谷 宗子さんは、私の船橋高校時代からの友人で、ピアノトリオを組んだ初めての音楽仲間です。私たちが、音楽を志すことを決めたのは、その高校時代でした。演奏メンバーも、私の原点にあたる「若き日々」のメンバーなのです。
また、山田 実紀子さんは、大谷さんと同門で、私とは東戸塚のマンションが同じだったご縁以来の長いお付き合い、ヴィオラの大島 路子さんは、大谷さんのカルテットの元メンバーです。
ピアノソロと協奏曲、そして室内楽と、バラエティに富んだ演目もお楽しみいただけると思います。コロナ禍でいろいろ落ち込んだところから、立て直し再スタートしていくにあたって、もう一度原点に返り、大作曲家の若き日々の作品に触れて元気や意気込みをもらえたらと、そう願っております。
大谷さんと共演した2015年開催 カサット・カルテット公演より。
※掲載内容は2021年12月のインタビュー時のものです。
(写真:東郷まどかさん提供/文:勝間田 努)