地域のイマ、とコレカラ…『第三十回 シネマトトツカ 代表 夏井 祐矢さん』
新型コロナウイルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第30回目は「#戸塚に映画館を」をキャッチフレーズに活動をしている、シネマトトツカの夏井 祐矢さんにお話を伺いました。生まれも育ちも戸塚区という夏井さん。映画や映像を通じて戸塚の文化振興を目指す夏井さんにこれまでの経験や、コロナ禍を経たこれからの展望についてお伺いいたしました。
シネマトトツカ 代表 夏井 祐矢さん
―まずは、映画との出会いとお気に入りの映画を教えてください!
夏井 祐矢(以下、略):小さい頃から自分の父親に映画館に連れて行ってもらったり、VHSやレーザーディスクが家にあったりと、映画を楽しむ機会が多かったんです。それで将来は漠然と映画に関わる仕事ができたら楽しいだろうな……と考えていました。その後、実際に大学では映画を専攻し、現在でも映画の仕事で生活をしているので、改めて人生を通して映画と関わってきたなと感じています。
お気に入りの映画はティム・バートン監督の「ビッグ・フィッシュ」です!
―続いて、シネマトトツカとしての活動について教えてください。
シネマトトツカは、映画を活用したコミュニティの設立を目指して2019年に立ち上げました。ただ映画の上映をする映画館ではなく、地域の方々が映画や地域の文化を通じてコミュニケーションが取れ、年齢関係なく遊べて学べる場所として開いていきたいと思っています。具体的には、こまちカフェさんや、ONE FOR ALL横浜さんのお部屋をお借りして隔月で映画の上映会を行っています。上映会では皆さんと一緒に映画を鑑賞した後、おしゃべりをする時間を用意しています。
立ち上げた経緯は僕が戸塚出身であることや、戸塚区に現在映画館がない事、また区内に文化的な施設があまりないなと感じたことが背景にありました。たまたま自分が映画や映像に関わる仕事をしていた、ということも理由の一つとしてありますが、映画や映像作品を観た後に誰かとつながって、地域内で知り合うきっかけを作りたいと思ったことが立ち上げた一番の理由でした。僕はこれまで映画や映像の仕事に関わってきましたが、映画が作ってくれた人との“つながり”は、僕の人生にとってかけがえのないものとなっています。地域単位にもそういった、映画をきっかけとした“つながりの時間”を楽しめる場所があれば、地域がより面白いのではないかと思っています。いわゆるシネコン(※1)では、基本的に“観たら終わり”です。もちろん観終わった後に自分の中で振り返る時間はあったり、一緒に観に行った人がいれば感想を言い合えたりしますが、基本的には不特定多数の方が“鑑賞する時間”を楽しむ場所だと思っています。しかし、映画が上映される場所の中にカフェやアート展示スペースなどが1つの空間として内包されていれば、観終わった後に初めて会う人とでも「私はこう思ったけど、あなたはどうだった?」などといったコミュニケーションをとれる可能性があるのではないでしょうか。そういった場所を作りたいと思ったのがシネマトトツカを立ち上げたきっかけです。しかし、そんな場所をいきなり作ることはできませんので、まずは映画の上映会をやってみることからスタートしています。
今後は、戸塚を拠点にしていることを活かす事業を作りたいですね。例えば、戸塚の“宿場町”というルーツを活かし、泊まれる映画館として戸塚に“映画の宿”を作ってみたいです。戸塚は宿場町の歴史が、石碑など断片的なものとしては残っているのですが、ビジュアルとして宿場町の歴史がわかりやすく残っているわけではないと感じています。そういった場所を作ることができれば戸塚のバックボーンを活かした場所にできるのではないかと考えています。
シネコン(※1)シネマコンプレックスの略。1つの映画館に複数のスクリーンを持つ大型映画館のこと。
●シネマトトツカの上映会の様子。
―シネマトトツカとしての活動とは別に映画に関するお仕事をされているとお伺いしましたが、どのようなお仕事をされていますか?
実は2022年4月に自分で会社を立ち上げまして、ミニシアターで上映するような映画の配給・宣伝、プロデュースや動画制作の事業をしています。劇場に連絡をして映画を上映させてもらったり……といった事業内容ですね。大作ではない作品に関わっているので、そういった作品を観客に届け、劇場に足を運んでもらえた時はやっぱり嬉しいですね。
起業前は映画祭に関わる仕事をしていたんですが、面白い作品を生み出す作家さんでも映画だけで食べていける人ってなかなかいないです。制作した作品を映画館で公開することすら、インディーズの作家さんからすると中々ハードルがあります。実力のある映像作家が少しでも活躍のフィールドを広げたり、社会的に映画で収入を得たりするお手伝いができればと思ったことが、自分が会社を作ることのきっかけになりました。
―コロナ禍はどのように過ごしておられましたか?
シネマトトツカとしてはコロナ禍当初、活動をストップしておりましたが、映画上映も含めオンラインでイベントを実施しました。その他、「戸塚宿においでやす」というタイトルで、宿場町の歴史を持つ戸塚で活躍する人を招き、トークイベントを開催するなど、コロナ禍でも映画や地域性を楽しんでいただく取り組みはできたかと思います。しかし、オンラインでの映画上映は場所も含め不特定多数の方に楽しんでもらうイベントになるため、戸塚区の方を対象とした取り組みではない側面がありました。オンラインは「地域内でつながるきっかけ作り」という上映会のコンセプトとそぐわないことを痛感し、やはり地域性のある取り組みをする上ではリアルの重要性を感じた期間でもありました。
●「戸塚宿においでやす」の広報用サムネイル
―シネマトトツカの今後の活動予定はいかがでしょうか?
現在、シネマトトツカの上映会は毎回会場をお借りしているので、今後は一つの拠点を作りたいと考えています。今後も上映会は隔月程度のペースで開催する予定ではあるんですが、「この場所に行ったら、必ず映画を観ることができる」というような場所を作るようにシフトしていければなと……。上映会を続けていて、幸いにも継続的に参加してくださるお客さんもいらっしゃるのですが、正直なところ上映会から次につながる機会はなかなか生まれ辛いなと感じています。色々な方から「応援しているよ!」「戸塚に映画館があると良いね!」とはお声をかけていただけるのですが、なかなかそれが大きな輪に広がっていかない現実が、とても複雑なところです。関係作りという点では、シネマトトツカのwebサイトで、地域の方々にインタビューをさせてもらって、戸塚にもこういう活動をされている団体だとか、こういうお店があることを紹介していました。現在、更新頻度は少なくなっていますが、今後頑張っていきたいと思います。
―最後にさくらプラザや、文化や芸術の施設にどのようなことを期待されているかをお聞かせください。
戸塚には市民も一緒に取り組める参加型の文化的発信地のような存在が今身近にないと感じていまして、そういった側面でリードいただける存在になってもらえれば、地域にとってもさらに良いかなと思います。
また、さくらプラザのイベント情報を見ていて、音楽のコンサートなど、その場の時間を楽しむようなイベントが多いなと思いました。それは、もちろんとても良いことなんですが、そういった鑑賞型のイベント以外で、映画に限らず、絵画やアートでも何でも良いのかもしれないんですが、コミュニケーションを取れる機会も何かあったら、僕も参加してみたいなと思いました。また、そういった機会がありましたらシネマトトツカとしてもコラボレーションできたら嬉しいです。
※掲載内容は2022年8月のインタビュー時のものです。
(取材・文:小野 良)