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地域のイマ、とコレカラ…『第二十一回 株式会社ファンケル 総合研究所研究推進室室長 宇田 正紀さん』

新型コロナウイルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第21回目は無添加化粧品と健康食品で有名なメーカーの株式会社ファンケル 総合研究所研究推進室室長 宇田 正紀さんです。JR東戸塚駅から徒歩7分ほどにあるオープンな雰囲気の研究所で貴重なお話をお聞かせいただきました。

 

 

宇田 正紀 研究推進室室長

 

―ファンケル総合研究所の歴史を教えてください。

 宇田 正紀 (以下、略):

この総合研究所は1999年に建設しました。それ以前は別々の場所で研究をしており、化粧品は栄区の上郷に化粧品研究センターで、健康食品は大船に食品研究所で行っていました。その後共同で研究できる分野があることや、シナジー(※1)効果を期待して1999年に一つの建物に統合されたという経緯があります。当時は「中央研究所」という名称で設立され、研究員は合わせて70名弱くらいでした。その後、研究開発型企業という方針の基、研究に力を入れて研究員も増員しました。この研究所を建てたときは大体120名規模を想定していたのですが、研究の幅も広がってきたためスペースが足りなくなり、2016年に隣の敷地に第二研究所を造りました。そちらでは基礎研究、もともとの建物では製品開発を中心に研究を行っています。今は210名くらいの研究員がいて建設当時に比べると約3倍になっていますね。

 

シナジー(※1)…ものや事柄、人などが複数存在することで、お互いに作用し合い、効果や機能を高めること。

―ファンケル総合研究所の活動内容について教えてください。

当社の商品は化粧品と健康食品が中心です。そのほぼ全てがこの総合研究所の製品開発・基礎研究から成り立っています。仕事の内容は、例えば、美容や健康に対して機能性がある成分を植物などから探したり、皮膚のシワやシミが起こるメカニズムを調べて、その改善方法の研究、また、どのようにすれば病気が予防できるか、などの美容や健康に関する研究全般をしています。そこから得られた知識や新しい素材、メカニズムを商品に応用して製品づくりを行っています。製品ができあがっても研究者の言葉のままでは、説明がお客様に伝わりにくいので、新しい成分や機能をいかにお客様にわかりやすく伝えるかという情報開発も研究所の役割です。結構大変なんですよ(笑)。

―一つの製品を世に出すためにどれくらいの期間がかかりますか?

製品により違いますが、少なくとも1年以上はかかりますね。長い製品だと基礎研究からメカニズムを確認して、成分を探索し、製品に応用するまで、10年かかるものもあります。逆に言うとマーケティング(※2)から「このような商品を早く出したい」という要望があった場合には、今ある商品をモディファイ(※3)して1年以内に商品を作ってしまうこともあります。

 

マーケティング(※2)…顧客のニーズを知り、円滑に自社のサービスや商品を販売していくための企業活動全般。

モディファイ(※3)…修飾すること。また、修正すること。

―株式会社ファンケルのSDGsの取り組みについてお伺いします。

当社は無添加の化粧品を作っているので、密封容器を使っています。そのため中身の化粧品を作るだけではなくその容器の研究開発も行っていますが、容器を設計するにあたってプラスチックの環境問題は当然出てきます。容器の厚さを薄くし、それによって使うプラスチックの量を減らすということは当然として、今は「バイオプラスチック」という植物由来のプラスチックを積極的に採用して使っています。

容器だけではなく化粧品の原料として使用されるパーム油も、認証パーム油(※4)に切り替えを進めており、2023年にはすべて認証パーム油に替わります。ここ1-2年で社内でも環境配慮への動きが加速しており、物を作る会社として率先して取り組んでいます。

 

認証パーム油(※4)…RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)とは日本語で「持続可能なパーム油のための円卓会議」のことを指す。持続可能なアブラヤシ製品の成長と使用を促進することを目的として、2004年に設立された。RSPO認証ラベルがあると「RSPOから持続可能だと認められたパーム油が含まれた商品」だということを意味する。


―商品を出していく上で大切だと考えることは何ですか?

今ではネットも含め、いろいろな情報が溢れていますので一般の消費者の方にとっては何が正しい情報か判断するのが難しいと思います。我々が出す情報は少なくともエビデンス(証拠・根拠)をしっかりとって、商品についても安全性などを証明した上で発売をしています。これをクリアしたスタンスメッセージでもある「正直品質」な商品であることをお客様にしっかりお伝えしていくというのが我々の一番の使命だと思います。正しい情報を上手に伝えていかなければいけないですし、ファンケルの情報は信用できると言っていただけるよう、実直に行っています。

機能性表示食品(※5)を出していますが、その制度ができる前から実際に臨床試験をして効果を確認し、商品を出しています。確認できないものは出さない、というスタンスです。「機能性表示」制度が始まった時には、様々な研究から多くのエビデンスを得ている我々にとって歓迎すべき制度であったので「やった!」と思いました。今後も商品を出す上でエビデンス・安全性・機能性はしっかり押さえていきたいと考えています

  

機能性表示食品(※5)…安全性及び機能性に関する一定の科学的根拠に基づき、食品関連事業者の責任において、疾病に罹患していない者(未成年、妊産婦(妊娠を計画している者を含む)及び授乳婦を除く。)に対し、機能性関与成分によって健康の維持及び増進に資する特定の保健の目的(疾病リスクの低減に係るものを除く。)が期待できる旨を容器包装に表示する食品。

 


―今後始めたい活動はありますか?

研究技術を皆さんにわかりやすく伝えるのが一番大切だと考えており、そのために動画を利用したり、いろいろな工夫や技術などに力を入れていきたいと思っています。動画の活用はわかりやすさだけでなく「研究」という仕事そのものに興味を持ってもらうように工夫して制作しています。現在公開しています「FANCLそこまでやるチャンネル」「FANCL号が行く -ドローンで巡るファンケル総合研究所-」(https://www.youtube.com/watch?v=3qjTXwl3zDw&t=10s)が一つの例ですが、撮影は何回も撮り直しをし、撮り終えるのに丸一日かかりました。

 

また、営業担当者や店舗スタッフが商品の持っているバックグラウンドの開発ストーリーや研究者の話を理解していることで、お客様の興味をより引くことができ、コミュニケーションにも役立ちます。そのためにも「どれだけわかりやすく伝えられるか」というのは一つの大きな課題ですね。研究に関する説明はそのままでは言葉自体が難しく聞いてもらえなかったりします。そんな事にならないよう、一般の方に説明する際には、「小学5年生でもわかる内容」をモットーに説明資料を作るように努めています。ファンケルの動画や研究発表などわかりやすい説明で、社外の方からも好評をいただいています。

―新型コロナウイルスの影響でどのように活動が変化しましたか?

50%の出社制限になりました。ただ、研究は設備がないとできないことも多く、業務に応じて出社する必要があります。会社で実験をしてデータを取り、データ解析は自宅でパソコンを使ってという風に、手を動かす仕事は会社で、頭を動かす仕事は自宅で、という風なやり方でなんとか在宅勤務を行っていました。

コロナ禍で一番進んだのはリモート会議ですね。それ以前もテレビ会議などありましたが、使いづらくてうまく機能していなかったんです。コロナになってリモートが一気に浸透しました。今ではそれが当たり前になって、わざわざ本社に行って会議をすることはほぼないですね。仕事を止めるわけにはいかないので研究所でやる仕事、自宅でやる仕事、バランスをとることが大事ですよね。

それから、以前は「研究所見学ツアー」を開催しており、年間2000名くらいのお客様が研究所見学にいらっしゃっていましたが、コロナで中止にしました。そのためお客様にどうやって研究所のことを伝えるか、オンラインでお客様にどのように研究技術を紹介すればいいのか、どんなオンラインセミナーを行うかなどを考えることに注力するようになりました。今ではそれが普通のことになってきましたね。先日は、学生向けに研究所見学をオンラインで行いました。そういう点がかなり大きく変わりましたね。

―研究所見学ツアーの再開は考えていますか?

やはりコロナが落ち着いた段階でないと難しいですね。それに代わるオンライン見学を考えています。研究所を公開している会社はほとんどないと思いますが、本来隠しておきたいところをファンケルはあえてお客様に見てもらっています。工場見学には行ったことがあるという人は多いですが、研究所をここまで見せてくれる所はなかなかないと言われます。お客様に実際に研究しているところや製品に込められた技術を間近で見ていただき、しっかりと研究をしているという事を知っていただけることは信頼感にも繋がると考えています。

―最後に、地域の文化施設に求めること、期待することはありますか?

是非、コラボをして当社の研究内容をご紹介するイベントを企画していただきたいです。例えば夏休みにお子様の自由研究の題材にファンケル総合研究所の研究員を派遣して何かを作るイベントなどができますね。

以前にもリケジョのイベントで女子中学生を対象に化粧水作りを開催したことがあります。そのような、お子様たちがものづくりに興味を持ってもらえるようなイベントをファンケルだけではなく、横浜にある何社か共同で行いたいですね。研究の楽しさを知ってもらい理系離れを阻止したいです。ファンケル総合研究所の研究員は芸達者でお子様ウケもいいので、もしそのようなイベントをやるようであれば是非お声がけください。

 

※掲載内容は2021年10月のインタビュー時のものです。 
(取材・文:石井 由里子)

 

 

株式会社ファンケル 総合研究所

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