地域のイマ、とコレカラ…『第三十一回 火留土工房 山口 幸文さん、山口 八千代さん』
新型コロナウイルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第31回目は陶芸教室 火留土工房(かるとこうぼう) 山口 幸文さん、山口 八千代さんにインタビューを行いました。40年間、地元に愛される陶芸教室を営んでおられるお二人に、教室の今の状況や、陶芸を縁に繋がった地元の方々との素敵なお話について伺いました。
山口 幸文さん、山口 八千代さん
―工房のこれまでの歴史を教えてください。
1980年に現在の場所に陶芸教室をオープンしました。その後、戸塚再開発、アンダーパスの工事に伴う2度の移転を経て、2012年より元の場所に戻って新しい工房をスタートしました。「火留土工房」という名前は「土の中に火が留まっている。だから、やきものには温もりがある」といった想いから名付けました。お陰様で今年で42年目になります。会員さんの中には1980年のオープン時からずっと通ってくださる方もいらっしゃいます。のんびりとした教室の雰囲気はオープン時から変わりませんが、ここから見える戸塚の風景は随分と変わりましたね。
−主な活動内容を教えてください。
主な活動は陶芸教室です。火曜日から金曜日は10時から13時の間、土曜日は10時から18時の間でフレキシブルタイム(自由参加で3時間)制で教室をオープンしています。うちの教室はビルの中ということもあり、煙突を付けたりするわけにはいきませんので、大小2台の電気窯で作品を焼成しています。教室にはたくさんの釉薬(※1)を揃えていますが、生徒さんには穴窯を薪で焚くことでできる自然釉の魅力も知ってもらいたいと思い、以前は越前の穴窯に生徒さんの作品を持って焼きに通っていたこともあるんですよ。
釉薬(※1)…素焼きの陶磁器の表面に光沢を出し、また、液体のしみ込むのを防ぐのに用いるガラス質の粉末。 陶磁器などを製作する際、粘土などを成形した器の表面に薬品をかけて生成する。粘土や灰などを水に懸濁させた液体が用いられる。
<陶芸の主な工程> 土練り(荒練り、菊練り)→成型→仕上げ(削り)→素焼き→釉薬がけ→本焼き
電気釜(大) 電気釜(小)
作陶スペース
教室以外にも、これまで近隣の色々な団体さんからお声をかけていただき、様々な活動に協力させていただきました。例えば、りそな銀行の戸塚支店長さんからのお話で、トツカーナ2Fのりそな銀行のフロアで作品展を開催したり、2014年にはトツカーナの子ども向けイベントで、陶芸用の「パステル」を使った絵皿描きのミニ教室も開催しました。2015年からは戸塚区の保険活動推進員会と町内会が連携して、毎年陶芸とコラボしたイベントを開催しています。例えば、抹茶茶碗を作って戸塚のお寺さんでお茶会を開く企画であったり、花器を作ってお花を生ける企画、コーヒーカップを作ってコーヒーを楽しむ企画、そば猪口を作ってそば打ち体験など色々やりましたね。2021年には横浜市立川上北小学校6年生の卒業記念陶芸教室のお話をいただきました。これは子どもたちが取ってきた学校のグラウンドの土を焼いて記念品を作るというものなんですが、そもそもグラウンドの土がちゃんと焼けるのかも分からなかったため、当初はお断りするつもりだったんです。でも、その時の担任の先生がとても熱心で、「高校野球の球児のようにグラウンドの土を使うことで、子どもたちの思い出の品にしてあげたい!」というその熱意に感化されて引き受けました。結果的には、ちゃんと焼成でき、子どもたちには良い記念になったと思います。その中でも特に嬉しかったのは、不登校のお子さんが工房に作品を持って来てくれたことですね。この小学校の件では色々な面で勉強させていただきました。
山口さん制作の陶器で作った川上北小学校の校章
校章の「笹りんどう」部分にグラウンドの土が使われている
※生徒さんの記念品とは異なります
2022年5月には教室でウクライナ支援のチャリティーセールを開催し、売上金は全額ウクライナ大使館に寄付させていただきました。このカップは、その時に作ったもので、ウクライナの国旗をハート型にして、早くそういう世界になってくれることを願って、カップの下側に皆が手を繋いでダンスしている図柄を入れました。平皿のほうは最初にウクライナの国旗、国章、国花である向日葵の陶製のスタンプを作って、それを素焼き前のお皿に押して着色しました。
山口 幸文さんの ウクライナ支援作品 山口 八千代さんの ウクライナ支援作品
山口 八千代さんの作った陶芸用スタンプ
―新型コロナウイルスの影響でどのように日常、活動が変化されていますか?
コロナ前は「お茶の時間」があり、持ち寄ったお菓子などを食べながら教室での会話を楽しんでいました。今はマスク徹底のうえ、会話には距離を取ったりと、以前のように気軽に会話がしにくい雰囲気もあって、定時の「お茶の時間」ではなく、各自のタイミングで水分補給する形を取っています。これは正直味気なくて、慣れませんね。いずれは再開できると思いますが、色々な団体さんとの連携企画も今はできなくなってしまったのも残念です。
―新型コロナウイルスの影響で困ったことはなんでしょうか?
生徒さんの中にはご高齢の方もおられるので、教室に通うこと自体に不安を持たれて休みがちになっている方や、電車に乗ること自体が怖いと言われる方、ご高齢なご家族がいるので通えないという方もいらっしゃいます。ただ、コロナ禍で一時的にお休みされている方々は、コロナが収まったらまた来てくださると思っているので、あまり気にしないようにしています。それよりも、教室の横にはギャラリーを併設しているんですが、こちらをオープンしたのがちょうどコロナが始まった年だったので、始めた途端にお客様が来られなくなってしまったのは困りましたね。
ギャラリー
―コロナ禍においても、ポジティブな効果やエピソードがありましたらお聞かせください。
体験教室を希望される方が増えましたね。コロナ禍も2年目に入ると、外出を控えて鬱々と毎日を過ごすのにも疲れて、「この機に何かを始めたい」と思われた方が多かったんじゃないでしょうか。もともと人間は自分の手で何かを作ることが好きなんだと思います。体験希望者の年齢層が30代・40代と若い方が多く来られるようになったのもコロナ以前とは異なる点ですね。以前は体験教室というと50代・60代の方が「一度陶芸をやってみたかったんです」とお一人で来られるケースが多かったんですが、若い世代にも陶芸に興味を持っていただけるのはとても嬉しいですね。
コロナ禍で教室に来られる会員さんは減ってしまいましたが、お一人お一人にマンツーマンで濃い指導ができますので、その点においては喜んでいただけているようです。
―新型コロナウイルスの終息後に新しく始めたい活動はありますか?
特に新しく始めるということではありませんが、今までオファーのあったことで、誰かの役に立つことであれば、できるだけ断らずに引き受けてきましたので、この姿勢は変えずに今後も多方面に取り組みを再開したいですね。それと合わせて、どこか場所を借りて生徒さんたちの作品展を開きたいと思っています。多くの人に作品を見てもらうことは生徒さんのモチベーションアップにもつながりますし、スポットライトが当たる非日常の空間で作品を見るのは素敵ですからね。 陶芸教室では作品が焼きあがると、生徒さんは嬉しくてすぐに家に持って帰ってしまうんです。そのため、自分以外の作品は、制作過程は見ていても完成品は見ていないというケースが結構多いんです。会場で互いの作品を見せ合うことで「あれがこんな風にでき上ったのか」とか「この作品をあの人が作ったのか」といったように、工房内だけでなく、見に来た方ともコミュニケーションが取れ、こういうきっかけで陶芸を始めてみようと思う方もいらっしゃるので、ぜひ作品展は実現したいです。
ただ、作品展開催には「陶芸作品は搬入・搬出が大変」という課題があります。作品を移動する際は割れ防止のために梱包するのですが、そうすると体積が大きくなり、同時に陶器なので重さも相当なものになってしまって、自分では搬入できなくなる人も出てきてしまうんです。写真や動画といったような新しい見せ方も話し合っていますが、まだ良い案はまとまっていませんね。
うちの教室では、教室の裏山の土を使った「戸塚釉」という釉薬を作っているんです。ちょっと珍しいものなので地元の人に知ってもらえると嬉しいですね。もともと駅前再開発で一旦この場を立ち退いた際に、陶土の断層が出て来たので、その土を少し分けてもらったんです。この釉薬は、その土と他の釉薬と混ぜ合わせて作っています。だから「戸塚釉」という名称なんですが、ちょっと名前がそのまますぎると思うので、何かいい案があればご提案ください(笑)。
「戸塚釉」を使って作成したカップ
―さくらプラザや、文化芸術に求めるものはなんでしょうか?
さくらプラザのギャラリーは立地も良く、きれいで魅力的なんですが、入り口が分かりづらいのが勿体ないですね。建物に入ってもギャラリー入り口が見えないので、多くの方が通過してしまいますよね。エスカレーター横の間仕切りが無いと随分ちがうと思うんですけれど。
ご高齢の方でも気軽に参加できる作品展を実現するためのアイデアをお互いに共有し、ギャラリーで作品展を開催できるといいですね。
火留土工房
〒244-0003
神奈川県横浜市戸塚区戸塚町6002-39 ツインズ ヤマキ T 1F
※掲載内容は2022年8月のインタビュー時のものです。
(取材・文:勝間田 努)