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地域のイマ、とコレカラ…『第二十七回 戸塚区地域子育て支援拠点 とっとの芽 施設長 福本 雅美さん』

新型コロナウイルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第27回目は戸塚区地域子育て支援拠点とっとの芽の施設長である福本 雅美さんにお話を伺いました。とっとの芽の立ち上げから関わり、戸塚区で子育てをする親子を見守っている福本さん。今回は、福本さんにとっとの芽を開所した経緯から、コロナ禍による現在、そしてこれからの展望についてお伺いいたしました。

 

戸塚区地域子育て支援拠点 とっとの芽 施設長 福本 雅美さん

―まずは、とっとの芽を開所した経緯と、福本さんの関わりについて教えてください。

福本 雅美(以下、略): とっとの芽は東戸塚駅西口にある子育て支援拠点です。0歳から未就学児とその保護者、妊娠中の方とそのご家族、子育てをサポートしたい人が集まる場所です。子育てに関する相談や情報収集、交流など、気軽に立ち寄って利用できます。施設内はおもちゃなどがある『ひろば』をはじめ、赤ちゃん専用のコーナーや、絵本や大人向けの本を読めるコーナー、研修室など、楽しみながらほっと一息つける空間となっています。

 

 ●戸塚区地域子育て支援拠点とっとの芽(〒244-0805 横浜市戸塚区川上町91-1 モレラ東戸塚 3F)

 

 

子育て支援拠点とは、もともと横浜市が2005年に施行した「かがやけ横浜こどもプラン」にて、「5年間で市内18区全区に子育て拠点を設置する」と掲げたことから始まっています。「居場所」「相談」「情報収集・提供」「ネットワーク」「人材育成」(現在では「横浜子育てパートナー」「横浜子育てサポートシステム」の機能が追加)を柱とした民間協働型施設として、今では全区に設置され、市内の子育てのサポートをしています。

とっとの芽が開所したのは2009年で、市内では11番目です。私が戸塚区に引っ越してきたのは2004年でしたので、まだ子育て支援拠点はありませんでした。私が妊娠した当時は、中区に「のんびりんこ」、港北区に「どろっぷ」という拠点が既に立ち上がっており、「戸塚にもこういう拠点ができたら良いよね!」と仲間内で話しておりました。その頃には戸塚区でも開所に向けて準備が進んでおり、2007年の夏には「戸塚区が地域子育て支援拠点を戸塚につくろう会(以下、つくろう会)」が立ち上がりました。これは、拠点を行政主体で作るのではなく、民の力と民のアイデアを出し合って協働しながら作るという、他区と比べると斬新な設計になっています。私もつくろう会に参加しましたが、参加したメンバーは自分が子育てをしている時に居場所がなく、「戸塚に子育てを皆でシェアできる居場所を作りたい」という想いがとても強かったです。その後、私は当時の施設長に声をかけていただいたことをきっかけにスタッフとなりましたが、その他のメンバーの多くがそれぞれに自分の方向性を定めながら、子育て支援に関わり続けています。あの時から10年近く経ちましたが、同じように子育てというキーワードを共有しているということは何とも嬉しい気持ちになりますね。

―とっとの芽のスタッフの皆さんは、「子育てに対する“情熱”がすごい……!」と常々感じておりましたが、そのような立ち上げの経緯もあるからなんですね。

ありがとうございます。でも、“情熱”という点で言うと、“とっとの芽が”というより“戸塚区が”なのだと思います。戸塚区の色として、行政と区民が一緒になって何かを達成させていくという風土が、もともと備わっていたんじゃないかなと思っています。拠点を作る時もそうでしたけど、その前の段階から自分の意見をはっきりと行政に伝えられる方がたくさんいらっしゃいました。行政の方も戸塚区民は「熱いぞ……!」と感じていたからこそ、区民の力を借りたんだと思います。

―そうやって皆さんがリーダーシップをとっていると、自分も子育て支援に回りたいという方も出てくるのではないでしょうか?

そうですね。とっとの芽も開所から10年以上経ちましたので、利用者からスタッフになっている方が何人かいるんですよ。ここで助けてもらったからという理由でスタッフになってくれる方もいるし、ボランティアで残ってくれる方もいるし……。あと、小さい時に遊びに来てくれていた子が、中学生になって学校の職業体験でまた来てくれたりとかも増えてきましたね。

―コロナ禍になってからはいかがでしたか?

この2年間ですごく変化がありまして、感染症が広まってから最初の緊急事態宣言が出た時はひろばは開けないという指示が横浜市からあり、3ヶ月間ひろばは開けませんでした。相談業務と横浜子育てサポートシステム(※1)の機能は止めないようにしましたが、子育ての相談の件数は減ってしまいましたし、子育てサポートシステムもお子様を預かってくださるボランティアの方が参加しづらくなってしまうなど、決して活動がゼロだったということではないんですが、その期間の活動はしばらく止まっていましたね。2020年6月からはひろばを再開できましたが、その時は予約制で1日3部制、10組ずつの利用という形でした。そのようなやり方をまず1か月続けて「3部制から2部にしようか」といった調整をして入場数を変えたりだとか、消毒の仕方を変えたりなど、試行錯誤をしながら1年が過ぎました。その後、2022年5月の大型連休明けから9時半から15時半まで自由に利用できるように緩和できています。とはいえ、すぐに利用者が戻るというわけではなく、コロナが怖くて行けないという方ももちろんいるし、自宅で仕事をできるようになったから早めに保育園に預けますという方もいます。どれくらいの層が地域の拠点に来られないのかはまだ調査できていないので、その辺は今後の課題ですね。

 

横浜子育てサポートシステム(※1)…横浜市民が安心して子育てができるよう、地域ぐるみでの子育て支援や、仕事と育児を両立できる環境を作ることを目的とした会員制の有償のささえあい活動。地域の中で子どもを預けたり、預かったりすることで人と人のつながりを広げ、地域ぐるみでの子育て支援を目指している。横浜市が本部事務局を、子育て支援を行っている法人が区支部事務局を担っている。

 

 

 ●とっとの芽のひろば。コロナ禍以前は、ひろば内でお弁当を食べることができていた。インタビュー時点ではまだ制限されていた。

―今後の展望は何かございますか?

先ほどもお話した通り、ここに来られていない方がどう過ごされているかを調べつつ、どういう支援をしていけばよいかを戸塚区と一緒に考えていけたらなと思っています。

今は試運転的に地域の公園へリサーチに行っています。そうしたところ、時間的なこともあったかもしれないですが、東戸塚周辺の公園にほとんどの親子がいなかったんですよ。スーパーの近くの公園には「お買い物のついでに寄れるから」という理由で何組かの親子がいたようですが、今の親子は公園でさえも遊びに出ていないということがわかったんですね。その中で、たまたま出会った親子に声を掛けたところ、その方々が1週間以内に全員拠点に来てくださったんですよ。今まで利用したことがなかったけれど、知っている顔がいるならと安心して来てくださったんだと思います。そういう繋がりができるということがわかったこともあり、改めて今の時代は拠点で待っているだけでは駄目で、アウトリーチが必要なのだと感じています。スタッフ皆でどんなものを持って、どこの地域に行けばいいのかなということを検証しているところです。

 

 

 ●とっとの芽では「公園あそび隊」として、外遊びの楽しさを広める活動も行っている。

―アウトリーチの精神は大事ですね。拠点の外に出る時、スタッフの皆さんで共有されている気持ちはありますか?

とっとの芽ではお母さんたちとお話しするときには、共感することと、寄り添うこと、お母さんが自分で決めることをすごく大事にしています。色んなことを私たちから発信するのではなくて、「お母さんたちが自分で考えて答えが出せるようにそのヒントを出していく」という声掛けの仕方を心がけているんです。街に出たとしても基本的なところは同じだと思うんですよね。私たちがとっとの芽のスタッフですと話をして、お母さんたちから聞かれた情報をお渡しして、その時お母さんが困っていることを丁寧に聞いて、もっとお話ししたかったらここに来てくださいね……と、そのような形で繋がりがひろがることが大切だと思うんです。だから、何かイベントを持っていくとかではなくて、“私たちがいるよ”ということを宣伝しにいく感じですかね。

とっとの芽が開所したときのキャッチフレーズは「いつでもスタッフがいます」ということだったんです。ひろばがあっても、そこに知らない人しかいなかったら何も話せないですよね。だけど、ここは「友達がいなくても、親、子一人で来てもお話しができるんですよ」というマインドが売りの場所なんです。ですので、スタッフが地域に出ていったときに、私たちに何ができるかということをちゃんと内部で話し合って、「じゃあこういう取り組みを外でやってみよう」というところを、私達が共通理解して、誰が行っても同じ支援ができるような共有はしていますね。やっと、そこまで来たという感じです。

―最後にさくらプラザや、文化や芸術の施設にどういうことを期待されているかをお聞かせください。

とっとの芽のひろばに来ている子どもたちに楽器演奏を聴かせるだけで、すごく目がきらきら輝くんです。子どもの時に出会った音や刺激は本当に宝物だと思うんですよね。だから、もっとその刺激を感じてもらいたいです。

音楽を聴くとか、演劇を観るとか、子どもの時に観たものってずっと記憶に残ると思うんですよね。私も子どもの時に観た劇団四季の公演が、舞台から歌までずっと記憶に残っていますので、そういう体験をたくさん積める場を、地域と一体化された企画があると良いですよね。今はどことなく、それぞれの施設が別々に色んな物事を企画していて、それぞれが開催しているものがあると思うのですが、今後はそれを協働で行うことが重要だと思います。個人的にさくらプラザは、子どもの発表会で行くとか演奏会をする場とか、そのようなイメージがあるのですが、もうちょっと小さい子どもにとっても「遊びに来た」と思ってもらえる感覚の場になると、もっと身近な場所になるのではないでしょうか?あとは、大人の方たちが「子どもが騒いでしまっても大丈夫」と思えるような会がもっと増えてもいいのかと思います。皆が笑って過ごせるような場所があって、地域の連絡会のメンバーが協力したり、そこをバックアップしたりなど、できることはあるかと思います。

なかなか、芸術関係と子どもとの結びつきは難しいというか、「うちの子が集中して聞けないから行けない」とか、「騒いで申し訳ない」といったご両親が遠慮してしまうことがあると思います。そこはさくらプラザが、ご両親にもっとゆとりを持ってもらい「全然気にしなくていいんだよ」と感じてもらえるような場になればいいなと思います。

 

※掲載内容は2022年6月のインタビュー時のものです。

(写真:戸塚区地域子育て支援拠点 とっとの芽様提供/取材・文:小野 良)

戸塚区民文化センター さくらプラザ