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地域のイマ、とコレカラ…『第二十三回 造形教室むむてぃあ 主宰 志村 悦子さん』

新型コロナウイルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第23回目は2022年3月23日(水)〜3月27日(日)に区民企画事業として「<感じる心・生み出す手>アート展」を開催予定の造形教室むむてぃあ 主宰 志村 悦子さんです。美術や音楽など、興味を抱いたものを積極的に学んでこられた志村さん。コロナ禍においても前を向きながら企画を進めておられます。今回は志村さんの活動を振り返りながら、今後の展望をお聞きしました。 

 

―造形教室むむてぃあ様の活動や歴史について教えてください。

志村 悦子(以下、略):造形教室むむてぃあは、幼児・小学生を対象としたアート(絵画・工作)の教室です。最初に造形教室を始めた時から数えると今年で42年目になりました。たまたまご縁があって引っ越してきた戸塚区内のマンションに集会所があり「明るいこの場所で、子どもたちとアートを楽しみたいな」と思いまして、それ以来そこの集会所をお借りして、開催しています。幼稚園の時から小学校を卒業する6年生までと長く通ってくださる子もいます。例えば、kazuya君(さくらプラザ特待生(注)に第1期から登録しており、「ギター弾き語りシンガーソングライターkazuya」として活躍中)は、幼稚園の頃から通ってくれていて、今では音楽が大好きになってストリートライブで演奏するようになるなど、子どもたちの成長を見られるのがすごく嬉しいですね。

 

(注)さくらプラザ特待生……さくらプラザが「とつか未来創造プロジェクト」として実施している次代のアーティスト支援事業。公募により概ね13歳から24歳までの演奏家・表現者を目指している方を特待生として認定し、さくらプラザ主催公演の無料鑑賞などをすることで自身の芸術活動に活かしてもらっています。

 

  

●造形教室の様子

―志村様の造形教育との出会いについて教えてください。

若い頃、自分が何をやりたいかがわからず、短大卒業後は桑沢デザイン研究所という専門学校の夜間部に通ったことがあったのですが、そこで制作した作品が造形教室を開くきっかけとなったと思っています。その時の制作課題は「目で見て美しいものではなく、手で触って美しいものを作る」というテーマで、製材所で小さな材木を貰い、のみと小刀とヤスリだけを使って、何十時間も掛けて木のオブジェを作りました。他にも、「素材に触れる」、「生活の中の点・線・面を探す」等、アートの根源的な楽しさを教えてもらい、今まで生きてきた世界が違った形で見え始めたように感じました。こういうことに幼い頃に気がついていたら、もっと色んなことに興味を持ったり、楽しいことや自分のやりたいことが早く見つかったりしたのではないかと思い、子どもの造形教育への関心が高まっていきました。それから、専門学校の先生のご縁で「造形教育をもりあげる会」という子どもの造形教育の研究会に参加したり、造形教室で3年間助手をしたり、そこで刺激を受けて保母資格(1999年に保育士資格に改称)をとったり、また、私自身の子育てがひと段落してからは、「クエスト総合研究所」で「アートセラピー」を学びました。特に、アートセラピーについては「金沢文庫芸術祭」のチーフプロデューサーである浅葉和子(あさば かずこ)さんとの出会いが、最初の入口です。アートが心を癒やしたり、自分を開放したりすることに役立つんだということは勉強になりました。本当にアートは色々な可能性があるから、知れば知るほど面白くなります。

 

●課題で制作したオブジェ。インタビューの日にお持ちいただいた。

―志村様の教室では美術だけでなく、音楽にも力を入れておられます。音楽も取り入れたきっかけはあったのでしょうか?

私がアートセラピーを学び始めた時期にジャズヴォーカルを習い始めたことがきっかけでした。当時、油絵を描いて、神奈川県内の美術団体の公募展に参加していたのですが、賞を目指して一生懸命作品を作ることに違和感を抱いてしまい、「私にはもっと違う世界があるんじゃないか?」と考えるようになりました。公募展への参加を辞めたことを機に「今まで苦手だったことに挑戦してみよう!」と思いまして、歌を習うことにしました。すると、近所のコミュニティハウスの館長が、利用者でジャズをやっている人に声をかけてジャズコンサートを企画してくれ、参加しました。今でもその時に集まった音楽仲間とバンド活動をしています。 それまで経験してきたアートは基本的には個人で行う作業ですが、音楽は複数の人間が集まってアンサンブルとして楽しむことができます。特に、即興演奏を真骨頂とするジャズは「いま感じたことを音にしてみよう!」「仲間が出した音に、自分はこう応えてみよう!」といったキャッチボールのような楽しさがあります。「ジャズの即興演奏のように、お互いを刺激し合いながら、音楽とアートを同時に楽しむ方法はないだろうか?」と考えた結果「ライブペインティング」という表現方法にたどり着きました。それから、ギターを弾ける教室の卒業生に演奏してもらいながら、紙を広げて皆でそこに絵を描いたり、子どもと一緒にプラスチックのゴミ箱で太鼓を作り、叩きながら絵を描くことを同時にやったり、数年間試行錯誤を繰り返していました。そのようなタイミングでコロナ禍が始まり、思いも寄らない形で「ジャズミュージシャンと子どもたちのライブペイティング」が実現していました。

 

●「ご近所バンド」のメンバーとして高齢者施設で演奏した際の様子

―それがYouTubeに投稿されている「音楽と子どもたちのらくがきアート」ですね。コロナ禍での活動として意欲的な活動をされているなと感じました。

「音楽と子どもたちのらくがきアート」を開催したきっかけは横浜市がコロナ禍のアーティストや文化芸術関係者を支援するために行った「横浜市文化芸術活動映像配信支援プログラム」に応募したことです。設営や感染対策は会場である戸塚公会堂の副館長さんに相談にのっていただきながら無事、開催することができました。


 

「らくがきアート」では「Bintang Asia(ビンタン アジア)」というプロのジャズバンドによる演奏が流れる空間の中で、子どもたちに自由に心に湧いたイメージを描いてもらいました。バリ舞踏家の小泉ちづこ(こいずみ ちづこ)さんも交えながらの開催で、無観客でしたが大きな舞台の上で生演奏を聴きながら絵を描くというのは、小学生の子どもたちにとってはドキドキと緊張する大イベントだったと思います。でも、その緊張や戸惑い、高揚感を色や線で画用紙の上に描き出せた子どもたちは立派なアーティストでした。

コロナ禍での経験はマスクをしているために子どもたちの表情が解りづらいなど大変なことも多いですが、この「音楽と子どもたちのらくがきアート」を開催できたことは私にとっては幸運でしたね。

ー「さくらプラザ区民企画事業」についてと、今回の展覧会の見どころを教えてください。

「さくらプラザ区民企画事業」に参加することで会期が早く決められるので、余裕をもって展示の準備ができることは助かっています。毎回、展覧会にはタイトルを付けていますが、今回は「〈感じる心・生み出す手〉アート展」としました。「造形教室むむてぃあ」で長年一緒に講師をしてくれている中村眞知子(なかむら まちこ)さんが主宰する「造形サークルめいめい会」との合同展覧会です。長引く新型コロナ禍の自粛生活の中で、子どもたちは窮屈で制約の多い日々を強いられています。でも感じる心、考える心は、どんな時代でも着々とたくましく成長しています。絵具、粘土、紙、繊維……いろいろな素材を触り、感じ、遊んだ、その手から生まれたカラフルでユニークなアート(絵画・工作)約300点を展示します。「音楽と子どもたちのらくがきアート」の舞台上で使用した作品も展示しますので、ぜひそちらもご覧いただきたいです。 また、過去に参加した際には「ギャラリーコンサート」を開催していました。2016年3月(注)のコンサートには前述のkazuya君やゴスペルクワイアが出演してくれたり、2018年2月のコンサートではオカリナアンサンブル、ジャズバンドの演奏を行ったりしました。今回もギャラリーに飾られた作品の前で、何かしらの音楽の発信もしたいですが、コロナ禍でやり方は考えねばならないですね。

 

(注)2016年3月にギャラリー利用時は「区民企画事業」ではなく、抽選での一般申込。

 

●kazuya君が出演された際のギャラリーコンサート

ー今後、「区民企画事業」を始め、さくらプラザに求めることや期待されることはありますか?

戸塚の文化芸術振興のために、「アートと音楽」を同時に楽しむことができるイベントをたくさん開催してください。私としては音楽の生演奏の中で絵を描く、「ライブペインティング」を企画してくださると嬉しいです。

 

※掲載内容は2022年1月のインタビュー時のものです。

(取材・文:小野 良、写真:桑田 春花)

戸塚区民文化センター さくらプラザ