地域のイマ、とコレカラ…『第三十三回 戸塚図書館 油谷(あぶらたに)館長 山崎さん』
新型コロナウイルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第33回目は 戸塚図書館 油谷館長と司書の山崎さんです。1978年に開館以来、地元に根ざした施設となった戸塚図書館。“本を借りる“だけではない今の図書館の話をお伺いできました。
左:油谷館長 右:山崎さん
※山崎様のお名前の漢字につきまして、【崎】の文字は本来は【たつさき】ですが、システムの都合上【崎】を使用しております。ご理解いただきますようお願いいたします。
―戸塚図書館の成り立ちや、主な活動、おすすめしたいイベント等について教えてください。
油谷館長:戸塚図書館は横浜市内で4つ目の図書館として1978年、昭和53年の11月1日に戸塚駅から徒歩7分のこの場所に開館しました。横浜市の図書館として初めて貸出にコンピューターを導入し、以後の横浜市の図書貸出方式の標準となりました。また、視覚障害者サービスを横浜市で初めて行った館でもあります。録音図書の制作・貸出、対面朗読なども開始しました。これらのサービスは現在では横浜市全図書館にまで拡大されています。戸塚図書館は先駆的なサービスを行っていた図書館です。
今年度から貸出できる本が6冊から10冊に増え、貸出期間も2週間が14営業日になって、利用される方に喜んでいただいています。現在、個人貸出用の蔵書は約165,000冊あります。雑誌や紙芝居、大きな活字の本もご用意しています。令和3年度は1日平均1,700人程度の来館者がいらっしゃいました。土曜日には2,000人を超えることもあります。予約冊数が多いのも特徴の1つです。駅近なので他の市立図書館の図書を予約して取り寄せる方も多いですね。知的好奇心が旺盛な方が多くいらして、素晴らしいなと思います。
今月(2022年11月)は児童虐待防止啓発月間に付随して「子どもSOSの本」の展示をしています。児童虐待やいじめなど、子どもたちに降りかかる不利益に対して、子ども自身が認識して周りに「いやだ」と意思表示できるようになる本を積極的に収集しました。12月は横浜市のいじめ防止啓発月間ですが、そういったタイミングに合わせて関連書籍を展示しています。
その他にも、毎月第4火曜日には「ちっちゃなおはなし会」という乳幼児と保護者向けのおはなし会を実施しています。また、区役所や学校のほかに、区内のいろいろな施設、地区センターやコミュニティハウス、ケアプラザや市民図書室と連携して各種イベントを行っています。
―2020年に子どもの読書活動優秀図書館として文部科学大臣賞を受賞されたと伺いましたが、具体的にはどのようなことを行っていたのですか?
>山崎さん:子どもの読書活動推進はどの館も行っていますが、児童書の貸出冊数が増加したということで賞をいただきました。子どもの読書活動というと「子どもに直接本を多く貸出している」という風に思われるかもしれませんが、子どもを取り巻く大人たちにも様々なアプローチをして、子どもが本を読むことを習慣化することに結び付けていくという活動が評価されたと思っています。具体的には子どもへのサービス、例えば「おはなし会」などで直接職員が絵本を読んだり、現在は行っていませんが区役所の4か月健診で子ども向けの本の紹介をしたり、わらべうたを紹介したりしていました。また、地域の読書ボランティアに本を読んでいただくことで、子どもたちに読書に親しんでもらえるおはなし会を開催しました。読書ボランティア自身のステップアップにつながる講座や交流会など、技術を高めていただく場を設けることで、読書ボランティアのやりがいも高まったと思います。
戸塚図書館独自で行っている「0歳からの読書活動推進ネットワークプロジェクト」も評価されました。0歳から親子でコミュニケーションを取って読書習慣を体得することの大切さを知らせるような講座を行ったり、動画を作ったりしました。他にも、区内の施設に「初めて出会う絵本コーナー」を作ってもらい、図書館まで来られなくてもその地域の人達が身近な読書施設へ行けば本を楽しめるコーナーを作るというプロジェクトを立ち上げました。このようにいろいろな角度からのアプローチで子どもたちと本を結び付けることができたことが、賞につながったのではないかと思います。
―油谷館長から見た戸塚区はどのような街でしょうか?
油谷館長:私は小学校1年生から、就職して実家を離れるまで戸塚で暮らしていました。目をつぶると再開発前の旭町通商店街があざやかに思い出されます。当時は今とは違った賑わいがあり、下町のような親しみやすい街でした。布団屋さんの隣に魚屋さんがあって、大きなプラスチックの樽の中でドジョウが上へ下へと元気に泳いでいたのを覚えています。生まれた土地ではないですが、子ども時代をここで過ごしましたので「故郷だなあ……」と感じています。ですから、異動で「戸塚図書館へ」と言われたときはびっくりしました。この戸塚図書館が開館したとき私は子どもでしたが、ピカピカの真新しい図書館がとてもうれしかったものですから、ここに戻ってくるということは感慨深いものでした。
―新型コロナウイルスの影響で、どのように日常、活動が変化しましたか?コロナ禍を踏まえて、新しく始めた活動、今後始めたい活動はありますか?
山崎さん:コロナ禍が一番ひどかったときには戸塚図書館も閉館せざるを得ませんでしたが、その後は閉館することなく、予約の受取など一部のサービスを行いながら、開館し続けていました。現在は通常どおり開館しています。そんな状況の中、まず安全な図書館運営に取り組みました。密を避けるため図書館内のレイアウトを見直したり、図書除菌機を導入したりしました。それまでは外へ出かけて行って読書活動推進を行っていましたが、それもできなくなってしまい、サービスの転換が求められました。
新たなサービスとして2021年の3月から電子書籍を導入しました。横浜市の図書館カードを持っていれば図書館に来なくてもご自分のスマートフォンやパソコンなどから予約可能となります。1人2冊2週間、電子書籍を予約・閲覧することができます。2週間経過し返却期限が来ると自動的に返却されますので、本を返しに行くという手間もありません。2021年の3月末時点で5,366点とまだまだ少ないコンテンツ数ですが、今後も全体的に増やしていく予定です。
また、戸塚図書館独自としては『とつか読書チャンネル』という動画の配信を始めました。現在まで6本が公開されています。「戸塚図書館の達人になろう」編は本の並び順などを説明した動画です。小学校4年生の国語の教科書で図書館が取り上げられているため、図書館の役割や本の並び順などを図書館見学で説明していたのですが、コロナ禍でそれができなくなってしまいました。「それでは、動画で説明してみよう」ということで作ったものです。ぜひ学校の授業や家庭で活用していただければと思っています。他には図書の修理方法と区内読書施設を紹介する動画などを制作しました。これからも継続していく予定です。
――人と地域との交わりのために、今後の文化芸術や文化施設、特にさくらプラザに期待することをお聞かせください。<
油谷館長:まず1つ目は以前、戸塚図書館とさくらプラザでコラボレーション(※)をさせていただきましたが、今後も一緒にそのようなイベントをできたら良いなと思っています。お互いに持ち寄れるものがあってできることがあったらぜひ今後も協力していきたいと思います。
2つ目は、質の高い公演や芸術を区民に提供し続けていただいて、良い刺激・インスピレーションをもたらしてもらいたいな、と思っています。図書館は地域の情報拠点というのは昔からの役割ですが、それに加えて、本を介して人と人との関わりや交流の場となることが求められています。同じ趣味の人が集まって交流の場を持ち何かを始める際に、質の高い芸術活動により刺激を受けることができたらその活動はとても充実していくのではと思います。
さくらプラザを始めとする戸塚区の様々な施設同士が、複合的に関わることができたらとても素敵ですね!
戸塚図書館とさくらプラザでコラボレーション(※)
《戸塚図書館 協力企画》「おれたち、ともだち!」シリーズ人気投票!!
「さくらプラザオープンデー2021 真夏のこども探検隊〜やあ、ともだち!みんなともだち!!ずーっと、ともだち!!!〜」(2021年7月25日開催)に向けて 2021年6月22日火曜日から7月23日金曜日の間、戸塚図書館で「おれたち、ともだち!シリーズ」最新作の『ともだちいっしゅうかん』を含めた、シリーズ全巻を展示。期間中シリーズのお気に入りの巻に投票していただきました。投票結果は7月25日日曜日にさくらプラザのホールに掲示されました。
※掲載内容は2022年11月のインタビュー時のものです。
(取材・文:石井 由里子)