地域のイマ、とコレカラ…『第十九回 魔女のアトリエ 松元 眞弓さん』
新型コロナウイルスによって戸塚の人々のイマがどのように変わったか、コレカラどうなっていくかインタビューを通じて見つめます。第19回目は 魔女のアトリエ 代表 松元 眞弓さん(通称 魔女さん)にお話を伺いました。さくらプラザ区民企画事業にご参加いただき、2022年1月18日(火)〜24日(月)の期間、さくらプラザ・ギャラリーにて「魔女とその仲間たち展」を開催予定です。
さくらプラザ 練習室4にて
作品名:IN MIND
―アトリエの活動について教えてください
松元 眞弓 (以下、略):
35年ほど前にアトリエを開きました。きっかけは戸塚小学校で特別指導教室のお母さん方から「子どもたちに絵を教えてほしい」と頼まれたことです。次第に他のクラスの子達も「私も絵を描きたい、私も!」と参加するようになって、今に至ります。ちなみに「魔女」というのは周りの人から呼ばれるようになって、最初は「え?」と思ったんですが、自分のことかなと思って「はい、はい」と返事をしているうちに、いつの間にかそれが定着してしまいました。戸塚区の「魔女」といえば私です(笑)。
現在は子どもから大人までを対象に月に4回各曜日のレッスンと、年に一度さくらプラザ・ギャラリーで展覧会を開催し、他には子どもたちの遠足やハロウィンパーティなど楽しいイベントを行っています。
その他にも地域の公園の清掃を子どもたちと行っています。本来でしたらゴミを出した本人が片付けるべきですが、子どもたちがそれを片付けることで、彼らが大きくなった時にそういうことをしなくなると思うんですよね。ゴミを散らかすことが人にどれだけ迷惑をかけるかを知るきっかけになると嬉しいです。
ハロウィンパーティの様子
アトリエ風景
―ネパールの子どもたちの絵の展示を企画していたと区民企画の申込時にお伺いしましたが、それまでの経緯を教えていただけますか?
ネパールで学校建設の他、「ダリット(※1)」というカースト(※2)にも入らない、最下層とされている民族がいるんですが、その民族の女性たちのために公民館のような施設を作り、職業訓練を行っています。今、私がネパールに行けないのでそれが滞っている状態なんですが……。
私が作った学校に日本の子どもたちの絵を持って行って展覧会を開催したり、逆にネパールの子どもたちの絵を借りてきてこちらで展覧会をしたりは以前からしていました。展覧会だけなら向こうから絵を送っていただけたら今でもできると思うんですよね。ただ、向こうの先生と相談しながらになるのでコロナ禍だと難しい面もあり、今回はアトリエの生徒たちと私、魔女の絵画展で企画しています。
ネパールはカーストが低いと学校に入れないんですが、私が作った学校はどんなカーストの子も等しく入れるという条件で作っています。その子の親も学校に行っていなくて、政府から出される書類の字が読めないし、いろいろな書類にサインも書けないので犯罪に利用されたり、お金を搾取されたりする事があるので、読み書きと計算は最低限でも必要です。「子どもたちが学校へ行って読み書き計算ができれば、親に教えることもできる」と思って学校を作りました。
20年ほど前からそのような活動を始めたのですが、きっかけはネパールに旅に行って、そのような現状を見てしまったんです。見てしまったからには見過ごすことはできなくて、なんとかしなくてはと。私は旅行の時いわゆる名所を観ることではなく、人々の暮らしを見ることが好きなので、山奥に一人で入っていって旅をしているうちに、いろいろなことを見るようになりました。中でも子どもたちが冷たい地面の草の上で足を真っ赤にしもやけにしながら一生懸命勉強している姿は強く印象に残っています。そのような姿を目にして「学校・校舎」の必要性を強く感じ、学校を作りました。学校を作れば今度は教材、先生が必要だとか、終わりが見えないですね。
ダリット(※1)・・・ヒンドゥー教社会における被差別民である。総数は約2億人と推計されている。
カースト(※2)・・・ヒンドゥー教における身分制度(ヴァルナとジャーティ)を指す。インドの憲法が禁止しているのは、あくまでカーストを理由にした「差別行為」であり、カーストそのものは禁止対象ではない。このため、現在でもカーストは制度として、人々の間で受け継がれている。
―現在の目標は何ですか?
子どもたちに絵を教えることはもちろんですが、「心」を育てることだと思っています。「心」を育てて、真っ当な考えを持つ子たちに育てたいと考えています。例えば、地球温暖化ですが、地球環境を破壊し、自然と一緒に生きている生き物全てに辛い思いをさせています。生き物達は何も悪くないのに人間のせいで環境が変わってしまって。環境が変わるということは生きていけないということです。命がどれだけ大切か、どんなものでも慈しむように、絵を描きながらも常にそういう話をしています。
―今後始めたい活動は何ですか?
コロナによる制限がなくなったら、子どもたちを連れて修学旅行のようにネパールへ行きたいです。ネパールの子どもたちがどのような生活をしているか、日本の子どもたちがどれだけ安全の中で安泰に守られて暮らしているか、あの国の現状を知ってほしい。日本の子どもたちは守られていますが、そのせいで良くないこともあるんですよね。例えば、何かが壊れたら道具がなければ直せない、その道具を取り寄せて直すという方法しか日本の子どもたちの頭にはないんです。でもネパールの子どもたちは道具がないから何かを利用してうまくそれを直すとか、工夫することに長けているんですよね。生活する、生きることに対してすごく賢いんです。日本の子どもたちに世界を見てもらって、他の国の子どもたちが貧しいのにどうしてこんなに笑顔を持っているのか、そこの意味を私が教えることなく現場を見て自分自身一人ひとりが考えてほしいと思って。今後始めたい活動はそれだけですね。
―さくらプラザがお役に立てたこと、またさくらプラザに期待することはありますか?
ギャラリーの利用の際、スタッフの方にワイヤーの設置など、設営準備をしてもらえることが助かります。また、さくらプラザは駅前という立地で、遠方からの来場者もアクセスしやすくて大変有難いです。ただ、利用したいのに競争率が高く予約が取りづらいのが難点ですね。今回のように優先予約で区民企画に参加できることがとても嬉しいです。
※掲載内容は2021年8月インタビュー時のものです。
(取材・文:石井 由里子)
作品名:残像
魔女のアトリエ
〒 244-0003
横浜市戸塚区戸塚町3515-54
TEL:045(881)8255